大銀杏は「おおいちょう」と読みます。名前の由来は、髷の先端を左右に広げた形が、イチョウの葉に似ていることです。
一般的な男性の髷とは異なり、頭頂部でまとめた髪の先を折り曲げ、左右に広げてイチョウの葉のような形に整えます。正面だけでなく、横や後ろから見ても美しいシルエットになるのが特徴です。
大銀杏と丁髷の違いは?相撲の髷には、大きく分けて大銀杏と丁髷(ちょんまげ)の2種類があります。
両者の違いは、単に髪型の大きさだけではありません。力士の番付や立場によって、結える髪型が基本的に区別されています。
- 大銀杏: 髷の先端をイチョウの葉のように広げた格式ある髪型。十両以上の関取が本場所などで結う。
- 丁髷: 髪を頭頂部付近でまとめ、髷の先を折り曲げて整える比較的小さな髪型。幕下以下の力士が基本的に結う。
なお、関取であっても普段から大銀杏を結っているわけではありません。稽古や日常生活では丁髷で過ごすのが一般的です。
つまり、大銀杏は関取であることを示す髪型であり、日常用と公式の場で使い分けられているのです。
【なぜ十両以上だけ?日本相撲協会の規定と関取の特別な立場】
大銀杏を十両以上の力士だけが結える最大の理由は、日本相撲協会の力士規定にあります。
要点は、十両が単なる番付上の一段階ではなく、力士の待遇や役割が大きく変わる境界線だということです。
十枚目以上は大銀杏が義務日本相撲協会の公式サイトが紹介している力士規定には、十枚目以上の力士について、出場時に大銀杏に結髪しなければならない旨が定められています。
ここでいう「十枚目」とは十両のことです。
つまり、十両以上の力士は大銀杏を自由に選べるというより、原則として出場時に結うことが求められています。
これは単なる伝統的なマナーではなく、協会の規定に基づく決まりです。
十両昇進で何が変わるのか?幕下から十両へ昇進すると、力士は「関取」と呼ばれるようになります。
この昇進によって、髪型だけでなく、収入や生活環境、土俵上での役割も大きく変化します。
主な違いは次のとおりです。
- 月給が支給されるようになる。
- 幕下以下の力士が付け人として身の回りの世話を担当する。
- 取組数が増え、本場所では原則として15日間毎日取組を行う。
- 絹の締め込みを使用できるようになる。
- 化粧まわしを着けて十両土俵入りに参加する。
- 大銀杏を公式の場で結う資格と義務が生じる。
日本相撲協会の公式解説でも、十両昇進は力士の待遇が大きく変わる転換点として紹介されています。
なぜ髪型まで番付で区別するのか相撲界では、番付が力士の社会的な立場を明確に示します。
大銀杏は、その立場を外見で分かるようにする役割を担っています。
特に、幕下以下の力士と関取の間には、給与、付き人、取組の形式、装束など、さまざまな待遇の違いがあります。
大銀杏もその一つです。
ただし、髪型が強さを証明するわけではありません。十両昇進によって得られる資格と、相撲界の伝統的な格式を表現しているのです。
【幕下でも大銀杏を結える?例外と関取との違いを一覧表で比較】
「幕下なのに大銀杏を結っている力士を見た」という人もいるでしょう。
実際、幕下以下の力士にも大銀杏が認められる例外的な場面があります。
ただし、幕下上位だから自由に結えるというわけではありません。
日本相撲協会の公式解説では、特別な場面に限って認められる例が紹介されています。
幕下以下の力士に認められる主な例外1. 十両力士との対戦
幕下上位の力士が本場所で十両力士と対戦する場合、大銀杏を結う慣習があります。
これは対戦相手である関取への敬意を表す意味合いを持っています。
2. 弓取式
本場所などで取組終了後に弓を使った儀式を担当する力士は、特別に大銀杏を結います。
弓取式は土俵上の儀式として行われるため、通常の取組とは異なる装いが認められています。
3. 初切(しょっきり)
初切は、相撲の禁じ手や珍しい動きを面白く紹介する演目です。
巡業などで幕下以下の力士が担当する場合、大銀杏を結うことがあります。
4. 床山の練習台
床山が大銀杏の結髪技術を磨くため、幕下以下の力士に協力してもらうケースがあります。
この場合は、技術習得のための練習という位置付けです。
5. 引退時の断髪式
引退する力士の断髪式では、最後の儀式にふさわしい姿として大銀杏を結うことがあります。
現役時代の番付とは異なる、特別な儀式上の扱いです。
関取と幕下以下の髪型・資格の比較| 比較項目 | 十両以上(関取) | 幕下以下 |
|---|---|---|
| 基本の髪型 | 大銀杏 | 丁髷 |
| 本場所の取組 | 大銀杏が原則義務 | 丁髷が基本 |
| 十両との対戦 | 大銀杏 | 慣習上、大銀杏の場合あり |
| 弓取式 | 大銀杏 | 特別に認められる |
| 初切 | 大銀杏 | 特別に認められる |
| 稽古・日常生活 | 丁髷が基本 | 丁髷が基本 |
| 引退時の断髪式 | 大銀杏を結う場合あり | 大銀杏を結う場合あり |
| 床山の練習 | 大銀杏の対象 | 練習台になる場合あり |
ここは相撲ファンでも混同しやすいポイントです。
十両土俵入りの後には、十両力士が取組の準備をしている間に、幕下上位の力士による「幕下上位5番」が行われます。
この時間帯に取組をする幕下力士は、十両と同じ控え座布団を使用できます。
しかし、幕下上位5番に出場するという理由だけで大銀杏が許されるわけではありません。
日本相撲協会は2026年1月13日公開の公式クイズでも、大銀杏ではなく控え座布団の使用が十両との違いとして紹介されています。
ここで重要なのは、幕下上位5番への出場と、十両力士との実際の対戦は別の話だということです。
【大銀杏はいつ結う?本場所・巡業・稽古で異なる髪型の仕組み】
大銀杏は、関取になれば毎日結っているというものではありません。
結髪する場面は、相撲の公式行事や本場所での役割によって変わります。
本場所では取組前に大銀杏を結う十両以上の関取は、本場所の取組に出場する際、大銀杏を結います。
土俵に上がる前の支度部屋では、床山による結髪が行われます。
幕内力士の土俵入りや十両土俵入りなどでも、関取の格式を示す髪型として大銀杏が見られます。
巡業や公式行事でも結う本場所以外でも、公式行事や公的な場面では大銀杏を結うことがあります。
ただし、どの行事でも一律に同じ扱いになるわけではなく、その場の形式や慣習によって決まります。
稽古や普段の生活では丁髷関取も稽古場では基本的に丁髷で過ごします。
これは、毎回大銀杏を結う必要がないことに加え、稽古や日常生活に適した髪型で過ごすためです。
大銀杏は、関取の立場を示す公式の装いとして使い分けられています。
【大銀杏の結い方を解説!床山の技術・道具・結う時間の全貌】
大銀杏の美しさを支えているのが、床山(とこやま)と呼ばれる専門職です。
床山は、力士の髪を整え、丁髷や大銀杏を結う職人です。
単純に髪を束ねているように見えますが、実際には髪質、毛量、頭の形、くせなどを見極める高度な技術が必要です。
大銀杏を結う床山の主な道具代表的な道具には次のものがあります。
| 道具 | 役割 |
|---|---|
| 鬢付け油(すき油) | 髪をまとめやすくし、形を整える |
| 櫛(くし) | 髪の絡まりを取り、毛流れを整える |
| 元結(もとゆい) | 髪を束ね、髷を固定する |
| 髷棒 | 髷の先端を広げて形を整える |
| 先縛り | 髷の先端部分を固定する |
| 握り鋏 | 必要に応じて毛先などを整える |
床山の道具は、どれも髪を美しくまとめるために欠かせません。
大銀杏の結い方はどのような手順?実際の結髪は、次のような工程で進められます。
第1段階:髪のくせを整える
まず髪に水を付け、毛流れやくせを整えます。
髪にくせがある場合は「癖もみ」と呼ばれる作業を行います。水分を含ませながら髪を揉みほぐし、結いやすい状態にする技術です。
日本相撲協会の2025年1月27日公開の公式クイズでは、髪が柔らかくなるまで15〜20分ほど揉みほぐす作業として紹介されています。
第2段階:鬢付け油をなじませる
続いて、鬢付け油を髪全体になじませます。
鬢付け油は、力士独特の髪型を作るうえで欠かせない整髪料です。
髪のまとまりをよくし、毛流れを整えて、髷が崩れにくい状態にします。
一般的な整髪料とは異なり、伝統的な結髪に適した油が使われます。
第3段階:髪を束ねて元結で固定する
髪を丁寧にとかし、頭頂部付近で一本にまとめます。
そこで使われるのが元結です。
元結は、和紙を細く巻いて作られた丈夫なひもで、伝統的なものには海藻や米などを使った糊が用いられてきました。
床山は元結を使い、髪が緩まないようしっかり固定します。
第4段階:髷を折り曲げて銀杏の形に整える
束ねた髪を折り曲げ、髷の先端を左右に広げます。
髷棒などを使いながら、銀杏の葉に似た形を作っていきます。
ここで大切なのは、単純に左右へ広げることではありません。
力士の顔の形や頭の大きさ、髪の量に合わせて、左右のバランスや全体のシルエットを調整する必要があります。
第5段階:全体を整えて完成
最後に、鬢や髷の形を整え、崩れにくい状態に仕上げます。
正面、横、後ろのどの角度から見ても美しい形になるように、床山が細かく調整します。
大銀杏を結う時間は何分?気になるのが、完成までにかかる時間です。
熟練した床山でも、大銀杏を結うには一定の時間がかかります。
日本相撲協会の公式解説では20〜30分程度、別の公式資料では15〜20分程度と紹介されています。また、床松さんの結髪を取材したハリマ化成グループの記事では、約20分で仕上げる技術が紹介されました。
髪の長さやくせ、毛量、当日の状態などによっても作業時間は変わります。
また、癖もみを必要とする場合は、その準備時間も考慮する必要があります。
床山になるにはどれほどの修業が必要?床山は、日本相撲協会に所属し、相撲部屋で力士の髪を結う専門職です。
床山にも五等から特等までの階級があり、経験を積みながら技術を高めていきます。
日本相撲協会の2025年5月16日公開の公式クイズでは、大銀杏を結うために特定の階級以上でなければならないという決まりはないと説明されています。
ただし、実際に結えるようになるには5年ほどかかると紹介されています。
加えて、ハリマ化成グループが紹介した特等床山・床松さんの取材記事では、本人が本場所の関取の大銀杏を初めて結えるようになったのは入門から約10年後だったとされています。
この違いは、基本的な結髪技術の習得と、本場所で関取を任されるほどの熟練度の違いとして理解できます。
鬢付け油の代金は誰が払う?意外に知られていないのが、鬢付け油の費用負担です。
日本相撲協会の2025年7月25日公開の公式クイズによると、櫛と元結は協会から床山に現物支給されていますが、すき油の代金は力士が負担します。
この費用は「油銭(あぶらせん)」と呼ばれ、髷を結ってもらった際に床山に渡す油代のことです。
床山の仕事は単に髪を整えるだけではありません。力士が土俵に上がる際の姿を支える、相撲界に欠かせない専門技術なのです。
【大銀杏の歴史と由来!江戸時代から2026年までの変遷】
大銀杏は、最初から現在の形で統一されていたわけではありません。
力士の髷は、時代ごとの風俗や流行、相撲界の習慣によって変化してきました。
江戸時代:武士の髷を取り入れた力士の髪型江戸時代に入ると、多くの力士が大名に召し抱えられ、武士の身分に取り立てられるようになりました。
そのため、力士の髪型も武士の髷に準じたものが多く見られました。
当時は現在のように大銀杏だけが標準だったわけではありません。
時代や流行によって、さまざまな形の髷が存在していました。
幕末:大銀杏の形が流行日本相撲協会の歴史解説によると、大銀杏は幕末ごろから流行し始めた髪型です。
髷の先をイチョウの葉のように広げる独特の形が、力士の華やかな姿と結び付き、次第に広まっていきました。
1871年:断髪令と力士の髷明治4年(1871年)には、断髪や廃刀に関する政策が進められました。
一般社会では髷を切る動きが広がりましたが、相撲界では力士の伝統的な風俗として結髪が認められ、現在まで受け継がれています。
これは、大相撲が単なる競技ではなく、伝統的な様式や文化を継承する世界でもあることを示す出来事です。
明治中期:大銀杏が力士の標準的な髪型に明治中期ごろになると、大銀杏が力士の標準的な髪型になっていきました。
その後もしばらくは栗髷などの形が残っていましたが、時代が進むにつれて髷の種類は整理されていきます。
現在では、十両以上の大銀杏と幕下以下の丁髷という区分が定着しています。
2026年現在:髪型は番付と伝統を伝える仕組み2026年現在も、大銀杏は関取の象徴として受け継がれています。
特に注目したいのは、髪型の伝統が単独で存在しているのではなく、番付制度や関取の待遇、床山の職人文化と一体になっている点です。
大銀杏を結うためには、関取としての資格だけでなく、十分な髪の長さと床山の技術も必要です。
十両に昇進しても、出世が早く髪が十分に伸びていない場合には、すぐに大銀杏を結えないことがあります。
つまり、大銀杏は番付だけで自動的に完成するものではありません。
力士の成長と、床山の技術、そして相撲界の伝統がそろって初めて成立する髪型なのです。
【プロの結論】大銀杏は関取の資格・伝統・職人技が重なる象徴
大銀杏を理解するうえで、押さえておきたい要点は3つあります。
第一に、大銀杏は十両以上の関取に結髪資格が与えられる髪型であり、本場所の出場時には原則として結う義務があること。
単に上位力士の間で流行している髪型ではありません。日本相撲協会の力士規定に基づく、明確な区分です。
第二に、大銀杏は関取であることを示す視覚的なステータスであること。
十両昇進は、給与や付き人、取組形式など、力士の待遇が大きく変わる節目です。大銀杏もその変化を外見で伝える役割を持っています。
第三に、大銀杏の完成度は床山の熟練した技術によって支えられていること。
髪質や毛量、頭の形を見極め、限られた時間で崩れにくく美しい形に仕上げる仕事は、長年の経験が必要な職人技です。
相撲観戦で大銀杏を見るときは、髷の美しさだけでなく、その力士の番付、関取としての立場、床山の技術にも目を向けてみてください。
一つの髪型から、大相撲の制度と文化の奥深さが見えてきます。
【相撲の大銀杏に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:相撲の大銀杏は何と読みますか?
A1:大銀杏は「おおいちょう」と読みます。髷の先端がイチョウの葉のように広がっていることから、この名前が付けられました。
Q2:大銀杏はなぜ十両以上の力士しか結えないのですか?
A2:日本相撲協会の力士規定で、十枚目以上の力士は出場時に大銀杏に結髪することが定められているためです。関取としての地位や格式を表す意味もあります。
Q3:幕下力士でも大銀杏を結うことはありますか?
A3:あります。十両力士との対戦、弓取式、初切、床山の練習、引退時の断髪式などが例外的な場面です。ただし、幕下上位5番に出場するだけでは認められません。
Q4:関取は毎日大銀杏を結っていますか?
A4:いいえ。関取も稽古や日常生活では基本的に丁髷で過ごします。本場所の取組や公式行事などで大銀杏を結います。
Q5:大銀杏を結うのに何分かかりますか?
A5:熟練した床山でも、おおむね15〜30分程度が目安です。髪質や状態によって異なり、くせを整える作業が加わることもあります。
Q6:大銀杏を結う床山になるには何年必要ですか?
A6:基本的な大銀杏の結髪技術を習得するには5年ほどかかると紹介されています。実際に本場所で関取の髪を任されるまでには、さらに長い経験を積む場合もあります。
Q7:十両に昇進すればすぐ大銀杏を結えますか?
A7:必ずしもそうではありません。髪の長さが足りない場合は例外となります。髪が十分に伸び、床山が結える状態になってから大銀杏を仕上げます。
Q8:大銀杏と丁髷の一番大きな違いは何ですか?
A8:髷の先端の形です。大銀杏はイチョウの葉のように広げますが、丁髷は比較的小さくまとめます。相撲界では、基本的に番付によって使い分けられています。
相撲の大銀杏は「おおいちょう」と読み、十両以上の関取が本場所などで結う伝統的な髪型です。
日本相撲協会の力士規定に基づくもので、幕下以下の力士は基本的に丁髷を結います。ただし、十両との対戦や弓取式、初切、引退時の断髪式などには例外があります。
また、大銀杏の美しい形を作るには、鬢付け油や元結などの道具と、床山の高度な技術が欠かせません。結髪には15〜30分程度かかり、その技術を身に付けるまでにも長い修業が必要です。
幕末から明治にかけて定着した大銀杏は、2026年現在も相撲界の伝統として受け継がれています。
次に大相撲中継を見るときは、力士の頭にも注目してみてください。大銀杏を結っている姿には、十両以上の関取としての誇りだけでなく、長い歴史と床山の職人技が込められています。
その髷の形一つが、相撲という世界の奥深さを物語っているのです。