国立競技場の建築で特に印象的なのが、木材と緑を組み合わせた外観です。巨大なスポーツ施設でありながら、周囲の明治神宮外苑の景観になじむように設計されている点に、この建築の特徴があります。
大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所の共同設計新国立競技場の設計・施工を担当したのは、次の3者による共同企業体です。
- 大成建設:建設工事を担う総合建設会社。
- 梓設計:建築・スポーツ施設などの設計を手がける設計事務所。
- 隈研吾建築都市設計事務所:木材などの自然素材と周辺環境との調和を重視する建築設計事務所。
設計の基本的な考え方は、神宮外苑の緑豊かな環境と建物を調和させることです。建物を周辺から切り離された巨大な構造物として見せるのではなく、軒庇の水平ラインや木の縦格子によって、森の風景につながるような外観を生み出しています。
なお、国立競技場を隈研吾氏一人の作品と表現するのは正確ではありません。公式施設概要に記載されているとおり、3者の共同企業体によるプロジェクトです。日本建築家協会の建築作品紹介でも、3者の関係者が設計に携わったことが確認できます。
47都道府県の木材を使った軒庇とは?国立競技場を象徴する特徴の一つが、全国47都道府県から調達した森林認証木材を使った軒庇(のきびさし)です。
使用されている木材は、主にスギなどの国産材です。沖縄県についてはリュウキュウマツが採用されています。木材は各都道府県の方角に合わせて配置されており、全国の地域性を建築そのものに取り込んだ設計になっています。
ここで重要なのは、47都道府県の木材がスタジアムのあらゆる部分に同じように使われているわけではないという点です。47都道府県の木材という特徴は、主に軒庇に関するものです。
一方、屋根や軒庇、情報の庭などを含めた施設全体の木材使用量は、JSCの施設概要によると約2,000立方メートル。屋根の鉄骨部分にも、鉄骨と木材を組み合わせたハイブリッド構造が採用されています。
森の木漏れ日を表現した5色の観客席スタンドを見渡すと、座席が単色ではなく、複数の色で構成されていることに気づきます。
使用されているのは、白・黄緑・グレー・深緑・濃茶の5色。森の木々の間から差し込む木漏れ日をイメージした配色です。
フィールドに近い部分には濃い色を多く配置し、屋根に近い部分には明るい色を多く配置しています。座席を均一な色にそろえず、自然の景色を思わせるモザイク状にすることで、観客が入っていない時間帯にも周囲の緑と調和する空間をつくっています。
風の大庇と風のテラスによる暑さ対策もう一つの注目点が、自然の風を利用した観戦環境の改善です。
「風の大庇」や「風のテラス」は、スタジアム内に自然の風を取り込み、観客席やフィールド周辺の空気の流れを生み出すために設けられています。季節ごとの風向きを考慮し、格子の配置などにも工夫が施されています。
加えて、JSCの施設概要では、体感温度を低減させる気流創出ファンが185台設置されていると紹介されています。
ただし、自然風やファンを活用した設計は、冷房の効いた屋内施設と同じ環境を保証するものではありません。夏のイベントでは、観客自身も水分補給や暑さ対策を準備しておく必要があります。
旧国立競技場との違いは?新旧スタジアムを比較現在のスタジアムをより深く理解するには、前身となる旧国立競技場との違いも押さえておきたいところです。
旧国立競技場は1958年3月30日に竣工しました。1964年の東京オリンピックをはじめ、日本のスポーツ史に残る大会の舞台となった施設です。その後、建て替えに伴って役目を終え、新しい国立競技場が2019年11月30日に竣工しました。
施設の規模を比較すると、新しい競技場は敷地面積、延べ面積ともに大きくなっています。旧施設の収容定員は54,224人、現在の新施設は運営事業者の公表値で66,727席です。
また、トラックは旧施設の400m・8レーンから、新施設では400m・9レーンへと変わりました。車椅子席も旧施設の約40席から、新施設では約500席へと拡充されています。
つまり、建て替えによる変化は外観だけではありません。競技施設としての機能、観客の受け入れ能力、アクセシビリティの面でも大きな更新が行われています。
【アクセス・最寄り駅】国立競技場への行き方と訪問時の注意点
国立競技場は東京都新宿区霞ヶ丘町にあり、複数の鉄道路線からアクセスできます。最寄り駅は都営大江戸線の国立競技場駅で、JR総武線各駅停車の千駄ケ谷駅と信濃町駅も利用できます。
最寄り駅と徒歩での所要時間MUFGスタジアム公式サイトが案内しているアクセス情報は次のとおりです。
都営大江戸線・国立競技場駅徒歩約1分
A2出口
JR総武線各駅停車・千駄ケ谷駅徒歩約5分
JR総武線各駅停車・信濃町駅徒歩約5分
東京メトロ銀座線・外苑前駅徒歩約9分
3番出口
出典:MUFGスタジアム公式アクセス案内
住所は東京都新宿区霞ヶ丘町10-1、郵便番号は160-0013です。
電車で向かう場合、最も駅から近いのは都営大江戸線の国立競技場駅です。JRを利用する場合は千駄ケ谷駅と信濃町駅が候補になります。
ただし、最寄り駅からの徒歩時間と実際の入場時間は同じではありません。大型イベントでは駅周辺や歩道、入場ゲート付近が混雑する可能性があります。チケットに記載されたゲートを確認し、開場時間に合わせて余裕を持って移動するのがおすすめです。
車椅子利用者やベビーカーにも配慮した施設国立競技場は、ユニバーサルデザインにも力を入れています。公式施設概要では、車椅子席約500席、アクセシブルトイレ93か所が整備されていると紹介されています。
また、車椅子での移動や段差への配慮、エレベーターの設置など、さまざまな利用者が快適に過ごせる環境が整えられています。
場内マップには、車椅子用トイレ、ベビーケアルーム、カームダウン・クールダウンスペースなどの案内もあります。移動に不安がある場合は、事前に公式のバリアフリーアクセスマップや場内マップを確認すると安心です。
【見どころ・見学方法】MUFGスタジアムを観戦以外でも楽しむ方法
国立競技場は、試合やコンサートのチケットを持っている人だけが楽しめる場所ではありません。施設の公開日やツアーを利用すれば、建築やスポーツの歴史に触れる機会もあります。
5階の遊歩道「空の杜」注目したい施設の一つが、5階に設けられた「空の杜」です。
公式フロア案内によると、空の杜は1周約850mの遊歩道。スタジアムの高い位置から周囲の景観を楽しめる空間として設けられています。
競技場の内部にありながら、競技を観戦するスタンドとは異なる視点で建築や周辺の緑を眺められるのが特徴です。木材や植栽を取り入れたスタジアムの設計思想を感じる場所としても興味深いでしょう。
ただし、空の杜は毎日必ず自由に入れる施設ではありません。公開日は変更されることがあり、公式サイトでは月ごとの公開日程が案内されています。訪問前に最新の公開カレンダーを確認してください。
選手ロッカールームや競技トラックを巡るスタジアムツアー通常のイベント観戦では立ち入れない場所を見学したいなら、MUFGスタジアムツアーが候補になります。
ツアーでは、選手ロッカールームや競技トラックなど、スタジアムの舞台裏に触れられる内容が用意されています。オリンピック・パラリンピックの記憶とともに施設の歴史を知ることができ、建築に興味がある人だけでなく、スポーツファンにも魅力的な体験です。
2026年3月30日にはツアー料金の改定が発表され、同年5月開催分から新料金が適用されました。
2026年度スタジアムツアー料金
平日・大人3,200円
平日・高校生以下1,600円
土日祝・大人3,500円
土日祝・高校生以下1,750円
税込。開催日・予約状況・見学ルートは公式ツアー案内で要確認。
2026年度も施設内の改修工事が行われる場合があり、立ち入り可能なエリアやツアールートが変更されることがあります。料金だけでなく、希望日の開催状況と見学内容を確認してから申し込むことが大切です。
訪問前に知っておきたい場内の工事情報公式フロアマップでは、3階コンコースの売店エリアについて、改修工事のため利用できない旨が案内されています。施設内の状況は変わる可能性があるため、以前訪れたことがある人も、最新の案内を確認しておくと安心です。
また、イベント開催時は一般公開時と入場可能なエリアが異なります。場内の飲食店舗や売店、トイレの場所も、イベント専用マップで確認しておくと当日の移動がスムーズになります。
国立競技場はこんな人におすすめ- スポーツファン:陸上競技やサッカーなどの大規模大会を臨場感のある会場で楽しみたい人。
- 建築好き:隈研吾建築都市設計事務所などが参加した木材と緑の建築デザインに興味がある人。
- 歴史好き:旧国立競技場から受け継がれたスポーツの歴史や東京オリンピックのレガシーに関心がある人。
- 家族や友人とのお出かけを考えている人:公開日が合えば空の杜やスタジアムツアーを楽しみたい人。
一方、イベントのない日に必ずスタジアム内部を自由見学できると考えて訪れるのはおすすめできません。空の杜やツアーには開催日・公開条件があり、通常の施設外観見学と場内見学は別のものです。目的に合わせて訪問日を選びましょう。
【東京国立競技場に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:2026年現在、国立競技場の正式名称は何ですか?
A1:正式名称は「国立競技場」、英語表記は「JAPAN NATIONAL STADIUM」です。2026年1月1日から、MUFGとのパートナー契約に基づく呼称として「MUFGスタジアム」が使用されています。
Q2:国立競技場の収容人数は何人ですか?
A2:2026年現在の運営事業者の施設紹介では66,727席です。一方、日本スポーツ振興センターの施設概要には67,750席と記載されています。イベントごとの販売席数はステージや競技の配置によって異なります。
Q3:国立競技場の最寄り駅はどこですか?
A3:最も近いのは都営大江戸線の国立競技場駅で、A2出口から徒歩約1分です。JR総武線各駅停車の千駄ケ谷駅・信濃町駅からは徒歩約5分、東京メトロ銀座線の外苑前駅からは徒歩約9分です。
Q4:国立競技場の47都道府県の木材とは何ですか?
A4:全国47都道府県から調達した森林認証木材を、主に軒庇に使用した建築上の特徴です。スギなどが使われ、沖縄県はリュウキュウマツが採用されています。
Q5:国立競技場はイベントがない日でも見学できますか?
A5:空の杜の公開日やスタジアムツアーを利用できる場合があります。ただし、一般開放は日程や施設の運営状況によって異なります。2026年度の開催予定と予約条件を公式案内で確認してください。
Q6:旧国立競技場と現在のスタジアムは何が違いますか?
A6:現在の施設は2019年11月30日に竣工した新しい競技場です。旧施設は1958年竣工で、収容定員54,224人、400m・8レーンでした。新施設は3層スタンド、400m・9レーン、木材を取り入れた建築、バリアフリー設備などが特徴です。
東京国立競技場は、2026年1月から「MUFGスタジアム」の呼称で新たな段階に入りました。正式名称は国立競技場のままですが、MUFGとのパートナー契約や民間運営への移行によって、スポーツ競技に加えて文化・エンターテインメント・地域交流の拠点としての役割も広がっています。
施設の基本情報では、運営事業者の公表する収容人数66,727席、地上5階・地下2階、高さ約47mという規模が目を引きます。加えて、47都道府県の木材を使った軒庇、木漏れ日をイメージした5色の観客席、自然の風を取り込む設計など、建築そのものにも見どころがあります。
訪問時は、都営大江戸線の国立競技場駅が最短のアクセス手段です。座席表はイベントごとに確認し、空の杜やスタジアムツアーを目的にする場合は公開日・料金・工事情報を事前にチェックしましょう。
旧国立競技場から受け継いだスポーツの歴史と、47都道府県の木材に象徴される日本らしい建築。そして2026年から始まった新しい運営体制。これらを知ってから訪れると、国立競技場は単に大きな試合を見る場所ではなく、日本のスポーツ文化と建築の魅力が交差する場所として、より深く楽しめます。